ご挨拶 愛知県立大学全学同窓会会長 小林 宗治

 新(あらた)しき年の始めの初春の今日降る雪のいや垂(し)け吉事(よごと)

 天平宝字3年(759)正月元旦、因幡国庁(鳥取県庁)で、国守(県知事)大伴家持が詠んだ歌です。万葉集最後の歌でもあります。
 この年は元旦と立春が重なり、そのうえに瑞兆に雪が加わるという、このうえなく「めでたい」正月でした。それにことよせ「吉事(よいこと)」がさらに重なれ!と詠んだのです。しかしながら、家持は「めでたさ」とは全く無線の絶望の境地にありました。当時の大伴氏は橘奈良麻呂の乱(757)に加担し、破滅的な状況に追い込まれていました。家持自身はかろうじて難を逃れたものの、同族であり、かつての部下であり、かつ親交を温めたこともある歌友大伴池主を杖のもとで失いました。その影響は避けられず、さらに翌年の人事では家持自身も僻遠の地因幡の国への左遷となったのです。落魄の身の家持が「天離る鄙(あまざかるひな)」の地で初めて迎えた正月に詠んだ歌が冒頭の歌です。したがってこの歌は一見新年を祝う賛歌に見えますが、実は一族と家運の隆盛を秘かに願った「祈りの歌」ということになりましょう。
 さて、今大学は「法人化」という大きな試練に立たされています。行政から独立して人事や財政の自主的運用ができるというのが公的な見解です。しかし、実は県の財政の逼迫を受けて大学の選別を図り、財政的に身軽になろうというのがその真意でしょう。家持の歌と同様、公的声明の真にある真意を読み取ることが肝要です。
 「評価制度」もその一つ。意欲のある研究者を育てることができるというのが公的な説明です。しかしながら、実は県は財政難の中で総額を抑制し、その中で競争させる手法と考えるべきでしょう。しかもその評価は「即」「目に見える」評価です。逆にいえば「日に見えない」地道な研究、言ってみれば後にノーベル賞となるような基礎的な研究は、評価されない可能性が高いと言えます。現在の評価制度は、むしろ目先ばかりの研究を奨励し、かえって研究の質を落とす嫌いがあると言えます。
 学生の置かれている状況も深刻です。少し前までは「自分探しの旅」ができる余裕のある身分とみられていました。しかし本学においても授業料の減免措置が年間8000万円に上ると聞いています。佐々木学長の話によれば、昼食は生協の食堂すら利用できず、200円までに抑えた、湯をかけるだけのカップ麺で済ましている学生もいるということです。
 同窓会も「個人情報保護法」によって、今後は名簿の発行も簡単にはできなくなるでしょう。「無縁社会」ということが言われていますが「個人情報保護法」そのものが、その形成に加担している面が見られます。
 私どもの全学同窓会は、上述のような大学、先生方、学生の皆さんの置かれている状況を踏まえて、少しでもお役に立ちたいと考えています。また、卒業された皆さん方同士の絆もいっそう大切にしたいと考えております。もう一つ、新たに発足した日本文化学部、統合されて設置された看護学部等の同窓会づくりも今後の課題と言えます。
 八年の長きにわたって奮闘された中井昇前会長の後、微力ではありますが小生が新しい会長を引き受けることとなりました。皆様の温かいご指導とご鞭捷を心よりお願いして新年のご挨拶並びに就任のご挨拶とさせていただきます。

  ※全学同窓会報 No.23 2011年1月発行に掲載したものです。